奇妙な勝利:ハンクとメニーのキャスティング
脚本の最終版ができあがると、ダニエルズは『スイス・アーミー・マン』の核となる忘れがたい2人組の役に合う俳優を探しはじめた。彼らが求めたのは、創造性という点で気心が合う人物たちで、ダニエル・ラドクリフとポール・ダノというありそうでなかったコンビを見つけ出したのだ。ラドクリフは、インディーズ作品やブロードウェイ・ミュージカルへの出演を経て、ハリー・ポッターを演じていた頃からすっかり成長していた。「大変だったのは、歌を歌えて、一緒に働きやすく、才能がある人物を見つけ出すことだった」とシャイナートは説明する。
ダノは第一候補だった。『リトル・ミス・サンシャイン』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』などに出演する熟練の俳優であるダノは、大胆で冒険心があり調子の悪い役柄にはなじみがあった。「ハンクは彼にとってありきたりの役柄ではなかったけれど、ダノはこのキャラクターを面白い方向転換として捉えたんだ」とクワンは説明する。「おかげで、あの偉大な映画は俳優を僕たちのバカげた物語の中心に据えることができたんだ」とシャイナートはつけ加える。「ダノは親友になったよ。なぜなら、彼も芯の部分では変わり者だからね。ダノとダニエル・ラドクリフ、そしてメアリー・エリザベス・ウィンステッド、『スイス・アーミー・マン』に出演する3人の俳優は、僕たちの奇想天外な創造の作業についていくため、自分たちの信念から脱却しなきゃならなかったんだ」。
この創造の作業では、北カリフォルニアのアメリカスギの森における数週間にわたる撮影が必要となった。撮影では、ダノとラドクリフは肉体を酷使しなければならず、それは骨の折れる作業となった。「たぶん、俳優になってから一番肉体を酷使したよ。森中、ダニエルを抱え歩いただけの話ではない」とダノは語る。「地形とアクション、それにユーモアや感情的なものが組み合わさって、酷使することになったんだ。ダニエルズは数多くのすばらしいアイデアを映画に取り入れた。ほとんどダンス・シーンに見えるような場面が何度もあったよ」。
『スイス・アーミー・マン』の撮影に入る前、ダノとラドクリフは顔見知り程度の仲だった。だが脚本の読み合わせで、撮影中でもそうでなくても、親密な関係になることがこの映画において必須条件だと分かった。「ラッキーなことに、僕たちはカメラが回っていない時もうまくやっていた」とダノが説明する。「撮影準備のためにニューヨーク市で初めて会った時、ダニエルズがこのクレイジーな作品をどうやって完成させるつもりなのか、僕たちは2人とも不思議がっていたんだ」。セットでは、ダノとラドクリフは抱き合う体勢が心地よくなり、長い間、絡み合っていたわけではないが、肉体的に密着していた。「だって、映画の大部分で、2人しかいないんだ。僕たちは常に互いを頼りあうしかなかった。ふざけあったり友情を育んだり、対抗したり一緒に楽しんだりする余地はたくさんあったよ」。